初期のAI研究は、論理や記号に基づいた「確実性」を前提としていましたが、現実世界は常に不確実性と曖昧さに満ちています。この現実に対処するため、1990年代以降、確率的AI(Probabilistic AI)のアプローチが台頭し、AIの応用範囲を大きく広げました。
確実性ベースのAIは、「AならばBである」といった明確なルールに基づいて推論を行います。しかし、人間は「たぶんAだろうから、Bが起こる可能性が高い」といった、不確実な情報から推論を行うことが得意です。確率的AIは、この人間の能力を統計学と確率論を用いて機械に模倣させようとするものです。
このアプローチの中心的役割を担ったのが、ベイズ統計学(Bayesian Statistics)です。ベイズ統計学は、事前の情報(事前確率)と、新しいデータ(尤度)を組み合わせることで、事象の確率(事後確率)を更新していくという考え方に基づいています。この考え方は、情報が不完全な状況下での意思決定や推論に非常に強力なツールとなります。
代表的な確率的AIのモデルとしては、以下のようなものが挙げられます。
これらの確率的モデルは、音声認識や自然言語処理の分野で特に威力を発揮しました。例えば、音声認識では、人間が発した曖昧な音響信号から、それがどの単語であるかを確率的に推定するのにHMMが用いられました。また、機械翻訳では、単語やフレーズがどのように並ぶのが最も「自然」であるかを、膨大なコーパスデータから確率的に学習することで、より流暢な翻訳が可能になりました。
確率的AIのアプローチは、初期AIの限界であった「記号接地問題」(記号が現実世界とどのように結びつくか)や「フレーム問題」(関連のない膨大な情報の中から必要な情報を見つける問題)に対する部分的な解決策を提供しました。データからパターンや関係性を学習し、不確実な状況下でも最適な判断を下す能力は、AIの応用範囲を大幅に広げ、実世界の問題への適用を可能にしました。
今日、ディープラーニングが主流となっていますが、その基盤には統計学と確率論の考え方が深く根付いています。例えば、ニューラルネットワークの学習プロセス自体が、確率的な勾配降下法を用いて行われます。また、生成AIに見られるサンプリング手法も、確率的モデルに基づいています。確率的AIは、AIが「曖昧さ」を理解し、現実世界で機能するための重要な一歩となったのです。
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