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【AIの歴史6】エキスパートシステム:知識の体系化による復興の兆し

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「AIの冬」が吹き荒れる中、AI研究の復興の兆しとなったのが、1980年代に隆盛を極めた「エキスパートシステム(Expert System)」でした。これは、人間の専門家(エキスパート)が持つ特定の分野の知識をコンピュータに組み込み、その知識に基づいて推論を行うシステムです。

エキスパートシステムの基本的な考え方は、人間の専門家が問題を解決する際に用いる「もし〜ならば、〜である」といった経験則(ヒューリスティクス)を、プロダクションルールとしてコンピュータに記述することにありました。このルール群と、事実データが格納された知識ベース、そして推論を実行する推論エンジンが主要な構成要素です。

このアプローチが注目されたのは、初期のAIが直面した「常識」のような広範な知識の獲得の難しさを回避し、特定の、限定された専門分野に焦点を絞ったからです。例えば、医療診断、地質調査、化学分析といった分野は、専門知識が比較的明確に体系化されており、エキスパートシステムが効果を発揮しやすい領域でした。

最も有名なエキスパートシステムの一つが、スタンフォード大学で開発された医療診断システムMYCINです。MYCINは、血液感染症の診断と治療法の提案を行い、人間の専門医に匹敵する、あるいはそれ以上の診断精度を示したと評価されました。また、DEC(Digital Equipment Corporation)が開発したR1(XCON)は、コンピュータシステムを顧客のニーズに合わせて構成するシステムで、同社に数百万ドルの節約をもたらしたとされ、ビジネスにおけるAIの実用性を証明しました。

エキスパートシステムの成功は、AI研究に再び光を当て、企業からの投資を呼び込みました。第二次AIブーム、あるいは「エキスパートシステムブーム」とも呼ばれるこの時期は、AIが単なる研究室の机上の空論ではなく、実際に社会に役立つツールとなり得ることを示しました。

しかし、エキスパートシステムにも限界がありました。

  • 知識獲得のボトルネック: 専門家の知識をルールとして記述する作業は、非常に手間と時間がかかり、専門家自身も自分の知識をすべて言語化できるわけではありませんでした。
  • メンテナンスの困難さ: 知識ベースが肥大化すると、ルールの矛盾や追加・修正が困難になり、システムの維持管理が複雑になりました。
  • 常識の欠如: 特定の分野に特化しているため、少しでも専門分野を外れると、常識的な判断ができなくなりました。

これらの限界により、1990年代に入るとエキスパートシステムブームは徐々に下火になります。しかし、その概念やアーキテクチャは、今日のルールベースのシステムや知識グラフ、さらには推論エンジンを持つ現代のAIシステムにも影響を与えています。エキスパートシステムは、AIが実用的な価値を持つことを証明し、その後の研究の方向性を示す重要なステップとなったのです。

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