前回の記事では、ChatGPTが私たちの生活や仕事にどのような変化をもたらす可能性を秘めているか、その概要と活用事例について解説しました。驚くほど自然な対話能力、多岐にわたるタスクへの対応力、そしてその手軽さによって、ChatGPTは瞬く間に世界中の注目を集める存在となりました。
しかし、多くの方が疑問に思っていることでしょう。「一体、どうやってあのAIは人間のように言葉を理解し、あんなに流暢な文章を生成できるのだろう?」と。まるで魔法のように見えるその裏側には、最先端の人工知能技術が隠されています。
今回は、この「ブラックボックス」の中身を少し覗いてみましょう。ChatGPTの基盤となる「大規模言語モデル(Large Language Model: LLM)」の仕組みを、専門的な知識がない方にもわかりやすく解説していきます。
まず知っておくべきは、ChatGPTが人間のように言葉の意味を「理解」しているわけではないということです。ChatGPTは、人間が話す言葉の**「パターン」や「統計的な関連性」を学習している**と考えるとわかりやすいでしょう。
例えば、「今日の天気は」という入力があったとき、ChatGPTは次に「晴れ」「雨」「曇り」といった言葉が続く可能性が高い、ということを大量のデータから学習しています。そして、その中で最も確率の高い言葉を選択し、さらにその次に続く言葉を予測していく、というプロセスを繰り返して文章を生成するのです。
これは、まるで文章の「穴埋めクイズ」を解いているようなものです。膨大な量の文章を読み込み、「この文脈では、この単語が一番自然だ」ということを確率的に判断しているのです。
ChatGPTの根幹をなす技術は、「大規模言語モデル(Large Language Model: LLM)」と呼ばれます。文字通り、「非常に大きな」データを学習した「言語」に特化した「モデル(AIの脳のようなもの)」という意味です。
このLLMの学習プロセスは、主に以下の2つのフェーズに分けられます。
最初のフェーズは、「事前学習」です。ここでは、インターネット上に存在するありとあらゆるテキストデータ(ウェブサイト、書籍、論文、ニュース記事、会話ログなど)を、AIに読み込ませます。そのデータ量は、ペタバイト(1ペタバイト=1000テラバイト)規模とも言われ、途方もない量です。
この膨大なデータから、AIは言語の文法、単語の意味、文脈、表現のパターン、世界の常識など、人間が言語を操る上で必要なあらゆる知識を学習します。例えるなら、生まれたばかりの赤ちゃんが、世界中の図書館にある本をすべて読み込み、何万時間もの会話を聞き続けるようなものです。
この事前学習では、主に「次の単語予測」や「穴埋め問題」のようなタスクを通じて行われます。例えば、「犬が____で吠える」という文章があった場合、AIは「庭」「家」「公園」など、次に続く単語を予測し、その予測が正しかったかどうかで学習を進めます。この繰り返しによって、AIは言葉のつながりに関する強固な「知識」を身につけていきます。
事前学習が終わったモデルは、非常に幅広い知識を持っていますが、まだ「人間にとって自然で、役に立つ回答」を生成する能力は十分ではありません。そこで行われるのが、**「強化学習(Reinforcement Learning)」や「ファインチューニング(Fine-tuning)」**と呼ばれるフェーズです。
この段階では、人間がAIの生成した回答を評価します。例えば、AIが「今日の天気は?」に対して「リンゴは赤い」と答えたら「これは間違っている」と評価し、「晴れです」と答えたら「これは良い回答だ」と評価します。
具体的には、人間の評価者がAIの複数の回答を比較し、より質の高い回答に「報酬」を与え、質の低い回答には「罰」を与える形でAIを訓練します。これにより、AIは人間の意図をより正確に汲み取り、より適切で有用な回答を生成するように学習していきます。このプロセスは、「RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback:人間からのフィードバックによる強化学習)」と呼ばれ、ChatGPTの性能を飛躍的に向上させた重要な技術です。
ChatGPTのような大規模言語モデルの飛躍的な進化を可能にしたのが、「Transformer(トランスフォーマー)」というニューラルネットワークのアーキテクチャです。
従来の自然言語処理モデルでは、文章を順番に処理していく「再帰型ニューラルネットワーク(RNN)」や「長・短期記憶(LSTM)」が主流でした。しかし、これらのモデルには、長い文章になると前の部分の情報が忘れ去られてしまうという問題がありました。
Transformerは、この問題を解決するために、「自己注意機構(Self-Attention Mechanism)」という仕組みを導入しました。これにより、文章中のすべての単語が、他のすべての単語との関係性を同時に考慮できるようになりました。
例えるなら、従来のモデルが「一語一語、順番にメモを取りながら文章を読む人」だとすると、Transformerは「文章全体を一瞬で読み込み、どの単語がどの単語と関係が深いかを瞬時に把握できる人」のようなものです。この自己注意機構によって、ChatGPTは長文の文脈も正確に捉え、より一貫性のある自然な文章を生成できるようになったのです。
大規模言語モデルの性能を語る上でよく耳にするのが、「パラメータ数」という言葉です。パラメータとは、AIが学習を通じて調整する内部的な「設定値」のようなものです。このパラメータの数が多ければ多いほど、AIはより複雑なパターンを学習でき、より高度な処理が可能になると考えられています。
初期のGPT-2(ChatGPTの前身)が約1.5億個のパラメータを持っていたのに対し、GPT-3は約1750億個、そしてGPT-4はさらに膨大な数のパラメータを持つと言われています(具体的な数値は非公開)。この桁違いのパラメータ数の増加が、AIの性能を劇的に向上させているのです。
ChatGPTのような大規模言語モデルを開発するには、膨大な量のデータと、それを処理するための途方もない計算能力が必要です。
このため、ChatGPTのような最先端のAIを開発できるのは、OpenAIのような潤沢な資金と技術力を持つ企業や研究機関に限られているのが現状です。
繰り返しになりますが、ChatGPTは言葉の意味を「理解」しているわけではありません。それは、あくまで統計的なパターンと確率に基づいて次の単語を予測し、最も自然な文章を生成しているに過ぎません。
しかし、その予測があまりにも高度であるため、まるで人間が言葉を理解しているかのように見えるのです。この点が、AIの能力を評価する上で非常に重要なポイントとなります。AIは言葉の「形」や「関係性」は知っていても、それが指し示す「現実世界」の概念や感情を直接経験しているわけではありません。
今回の記事では、ChatGPTがどのようにして言葉を紡ぎ出すのか、その裏側にある大規模言語モデルの仕組みについて解説しました。
ChatGPTは、人間が作り出した言語の膨大なパターンを学習し、まるで人間の知性であるかのように振る舞う、「学習されたパターン」の結晶と言えるでしょう。その仕組みを理解することで、私たちはChatGPTの能力をより適切に評価し、その可能性を最大限に引き出すことができます。
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