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【AIの歴史10】ディープ・ブルーとチェス:機械が人間を超えた瞬間

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AIの歴史において、コンピュータが特定の知的ゲームで人間を打ち負かした瞬間は、常に大きな注目を集めてきました。その中でも、IBMが開発したチェスコンピュータ**「ディープ・ブルー(Deep Blue)」**が、当時のチェス世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフを破った出来事は、世界中に衝撃を与え、AIの能力に対する認識を大きく変える画期的な出来事となりました。

1996年、ディープ・ブルーはカスパロフとの初戦で敗れます。しかし、IBMの研究チームはシステムを改良し、翌1997年5月、ニューヨークで再戦が実現しました。この歴史的な6局マッチは、全世界の注目を集めました。結果は、3勝2敗1引き分けでディープ・ブルーの勝利。これは、コンピュータがチェスの現役世界チャンピオンを初めて破った瞬間でした。

ディープ・ブルーは、ディープラーニングのような現代的なAIとは異なり、主に**探索(Search)評価(Evaluation)**という古典的なAI技術の限界を押し広げたシステムでした。

  • 探索能力: ディープ・ブルーは、毎秒2億手という驚異的な速さで、何十手も先の盤面を探索し、考えられるすべての手を評価することができました。これは、当時の最先端の並列処理技術と、チェス専用に設計されたカスタムチップ(VLSI)によって実現されました。
  • 評価関数: 探索の深さだけでなく、各局面の優劣を評価する「評価関数」も重要でした。ディープ・ブルーの評価関数は、チェスのグランドマスターたちの知識や過去の対局データに基づいて、人間が持つ直感や経験を数値化するように設計されていました。

カスパロフは、ディープ・ブルーの「思考」に人間らしさを感じたとも語っており、特に第2局でのディープ・ブルーの動きは、多くのチェス専門家を驚かせました。ディープ・ブルーの勝利は、単に計算速度の勝利ではなく、高度な探索アルゴリズムと、専門知識を組み込んだ評価関数が、人間の直感を上回る可能性を示した点で意義深いものでした。

この出来事は、社会に大きなインパクトを与えました。「機械が人間の知性を超える」というSFのような話が、現実のものになりつつあるという認識を広めました。一方で、「AIは人間の仕事を奪うのか」といった倫理的な議論も活発化するきっかけとなりました。

ディープ・ブルーの勝利は、AIが特定の分野において、人間の専門家を凌駕する能力を持つことを明確に示しました。この成功体験は、後のAI研究、特に「深層学習」という新たな波が来る前に、AIの潜在能力を再認識させる重要なマイルストーンとなったのです。チェスにおけるAIの勝利は、将棋の「Ponanza」や囲碁の「AlphaGo」といった、より複雑なゲームでのAIの成功へと続く、長い道のりの第一歩でした。

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