AI研究の歴史を語る上で、日本の貢献、特に1980年代に国を挙げて取り組まれた「第五世代コンピュータプロジェクト(Fifth Generation Computer Systems Project, FGCS)」は避けて通れません。これは、未来のコンピュータ技術を先導する、野心的な国家プロジェクトでした。
FGCSは、1982年から1992年までの10年間、通商産業省(現在の経済産業省)が主導し、AI、特に推論や知識処理能力に特化した次世代コンピュータシステムの開発を目指しました。当時のコンピュータは、主に数値計算やデータ処理に用いられていましたが、FGCSは、人間の知能のような論理的な推論、自然言語理解、音声認識、画像認識といった機能を備えた「知識情報処理」に主眼を置いていました。
プロジェクトの背景には、当時の日本の経済的な隆盛と、来るべき情報化社会における技術覇権への強い意識がありました。欧米の研究機関がAIの冬に苦しむ中、日本はあえて大規模な投資を行い、未来のコンピュータの姿を描こうとしました。
FGCSの主な目標は以下の通りです。
このプロジェクトの中心には、論理プログラミング言語Prologがありました。Prologは、事実と規則を記述し、それらから新しい結論を導き出すことを得意とする言語であり、FGCSの目標である知識情報処理に適していると考えられました。
FGCSには、日本の主要な電機メーカーや研究機関から優秀な研究者が集められ、産学官連携の巨大なプロジェクトとして推進されました。彼らの努力は、並列処理の技術や、論理プログラミングの応用など、多くの技術的成果を生み出しました。
しかし、FGCSは最終的に、当初の壮大な目標を完全に達成するには至りませんでした。その理由としては、以下のような点が挙げられます。
FGCSは、その目標達成という点では厳しい評価を受けることもありますが、日本の計算機科学とAI研究に多大な影響を与えました。多くの優秀な研究者を育成し、後の日本の情報科学技術の発展に貢献したことは間違いありません。また、AI研究の難しさと、アプローチの多様性を改めて認識させるきっかけともなった、日本のAI史における重要な挑戦だったと言えるでしょう。
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